「原子力発電の廃炉費用に関する意見書」提出
生活クラブ京都エル・コープは、経済産業大臣にあてて廃炉費用に関する意見書を、また、内閣府原子力委員長にあてて原発事故損害賠償費用に関する意見書を提出しました
福島原発事故処理や廃炉費用をめぐり、経済産業省、内閣府で議論が進められています。
この時期に議論が開始されているのは、2020年の電力自由化で、総括原価方式が廃止になり、原発の費用が電気料金に上乗せが難しくなるためです。
また、福島事故の廃炉や賠償費用は、当初廃炉に2兆円、賠償・除染費用に9兆円といわれてきましたが、作業や賠償が進むにつれさらに現段階で、廃炉で4兆円、賠償費用で3兆円が追加で必要になり、どこまで膨らむのか見通せない状況です。
原子力発電の廃炉や賠償費用を過去に原発を利用した費用として、幅広い消費者に負担させようとするのは、電力自由化の理念を曲げることでもあり、問題です。
12月5日に開かれた理事会で、経済産業大臣にあてて廃炉費用に関する意見書を、また、内閣府原子力委員長にあてて原発事故損害賠償費用に関する意見書を提出することを決定しました。以下は、その意見書の全文です。
経済産業省
世耕 弘成 大臣
生活協同組合生活クラブ京都エル・コープ
理事長 細谷 みつ子
原子力発電の廃炉費用に関する意見書
原子力発電の廃炉費用については、経済産業省総合資源エネルギー調査会「電力システム改革貫徹のための政策小委員会」及びその下に設置された「財務会計ワーキンググループ」で、原発の廃炉費用および福島第一原発事故被災者への損害賠償を電気の託送料金に転嫁し、新電力を含めたすべての利用者に負担させることを検討しています。
電力を供給する場合、送電線は使わざるを得ず、託送料金に上乗せされるとその分のコストは、電気料金に上乗せされ、新電力の経営を圧迫しかつ公正な競争を阻害することにつながります。このような制度は、原発を持っている大手電力会社への優遇策と言わざるをえません。また、原発による電源ではなく新電力を希望する消費者も、最終的に原発に関わる費用を負担せざるを得ない状況は、利用者から理解を得られるものではありません。
電力自由化により総括原価方式が廃止され、市場が価格を決めることが原則となりました。今回の政策は、この点からも電力自由化に反する考え方です。原子力発電に大きな費用がかかるのならば、原子力を推進する2014年4月策定の「エネルギー基本計画」を見直し、再生可能エネルギーの拡大を目指すべきです。
今回の政策に対し、以下の通り、見直しを要望します。
1.託送料金に廃炉費用および福島第一原発事故の賠償費用を上乗せしないでください。
・託送料に原発の廃炉費用および事故損害の賠償費用を上乗せすることは、原発を持つ電力会社の負担を軽くすることであり、結果的に原発の優遇策であり、推進策です。託送料に上乗せされた費用は、新電力の負担となり、事業を圧迫し、公正な競争が行われなくなる可能性があり、電力自由化の理念に反します。
・この間、廃炉費用は発電事業者の責任で積み立てきており、今後もそのようにすべきです。廃炉に必要な費用は、原発を所有している電力会社とその利用者が負担することが基本であると考えます。廃炉に必要な費用を確保できなければ、売電価格に反映し原発による電気の利用者が負担するべきと考えます。
・原発事故に伴う損害賠償は、原子力発電事業者がその責任において負担すべきです。これまで電力事業者は、原発事業で利益を得てきました。事故責任をあいまいにし、事業の清算もしないまま、この費用を発電事業と関係のない託送料に計上して広く利用者から負担させることは、消費者の理解を得られません。
2.託送料金は、送配電事業に関わる費用に限定し、料金の内訳を明らかにしてください。
・送電網は、社会的なインフラでありその利用・運用は公正・中立でなければなりません。大手電力会社のために、廃炉費用など直接送電に関係ない費用を計上すべきではありません。あわせて送電線の公正・中立的な運用を確保するためにその料金の内訳などを公開するなどして透明性を高めていくことを求めます。
以上
内閣府原子力委員会
岡 芳明 委員長
生活協同組合生活クラブ京都エル・コープ
理事長 細谷 みつ子
原発事故損害賠償費用に関する意見書
原子力事故に伴う損害賠償については、内閣府原子力委員会の原子力損害賠償制度専門部会で原子力損害賠償法を見直し、賠償責任に上限を設けそれを超える分の費用を託送料金や税金に上乗せする形で確保することを検討しています。これは、本来原子力発電事業者が負うべき福島第一原発事故の賠償費用が膨み続ける状況にあり、国民全体に費用負担を求めようとするものです。
今回の政策に対し、以下の通り、要望致します。
1.原子力発電事故への賠償は、事故を引き起こした事業者に無限責任を負わせる現在の制度を維持すべきです。
・原子力発電所でひとたび事故が発生した場合の被害の甚大さは、私たちが福島第一原発事故で目の当たりにしたところであり、決して取り返しがつかず、賠償金で償うことができないものです。事故から5年半を経過してもなお世論の多数が原子力発電に頼らないエネルギー政策への転換を求め続ける理由でもあります。
・原子力発電事業者が無限責任を負えないほど安全に関わるリスクが高いのであれば、そもそも原子力発電を行なうべきではありません。2014年の政府のエネルギー基本計画においても、原子力発電について「可能な限り低減させる」方向性の中で、あえて原子力発電事業を行なおうとする事業者には、本来、安全に対する全面的な責任を求めるべきです。事故が起きた場合の責任の一部を他に転嫁できることは、発電事業者の安全へのモラルや投資の低下を招きかねません。
2.原子力発電事業者の責任で賠償リスクを含めて見積もり、売電価格に反映させるべきです。
・原発事故に伴う損害賠償は、原子力発電事業者がその責任において負担すべきです。この費用を発電と関係ない託送料や税金、に計上して広く利用者から負担させることでは理解を得られません。
・賠償責任に上限を設け、超えた分は税金や電気料金などの国民負担で補うとする案が検討されていますが、それでは原子力発電の持つリスクが価格に反映されたことにはなりません。原子力発電のリスクに備える費用が、原子力発電を利用する需要家の負担と異なる形での制度化は、利用者に見えにくい形で費用が回収されることに問題があります。万が一事故が発生した場合の費用を含めて見直し、原子力発電を行なう事業者がきちんと引き当て、売電価格に反映させるべきです。
・原発の継続・推進を前提とした現在の政策を見直すことを前提に、原発事故に伴う損害賠償の費用を算定して、負担のあり方について改めて広く国民の議論に付して検討すべきです。
以上